階差機関 (1)
まさしく階差=〈diff/erence〉と名づけられた妖怪(spectre)が、まだもって徘徊しつづけている。これは、あなたがたがシステムと呼んだものに関する小さなふたつの物語である。
階差は隠蔽されている。システムが、機械が、機関が、階差をこそ、その基礎としているにも関わらず。(先刻ご承知のことと思うが、あえてご注意申しあげる。「我々」はいつでもすくなくともふたつの意を含んだ言葉をものすることを試みる。ここでは、語義通りの階差機関すなわち情報処理機械と、資本主義{を/が}駆動するシステムのどちらもが指し示されている)
階差は隠蔽されている(註1)。
あなたがたがMicrosoft Windowsと呼ばれるオペレーションシステムのいくつかのバージョンのどれか(「バージョン」という言葉に注意していただきたい)を使っているとしたら、階差妖怪(diff command)は、あなたがたの眼に届くところにはない。 開発環境(アセンブラ・コンパイラ・デバッガと呼ばれる、システム内部に精通するための特殊なソフトウェアである)を導入してはじめて、あなたがたはその権力を手にすることができる。
あなたがたがMacOS Xと呼ばれるオペレーションシステムのいくつかのバージョンのどれか(繰り返しになるが、「バージョン」という言葉に注意を忘れないでいただきたい)を使っているとしたら、それはBSDと呼ばれる隠語が指し示す階層(layer)に隠されている。BSDとは、UNIXと呼ばれていたものに似ているなにかであり、しばしば悪魔(daemon) の名において語られるシステムである。階差とは、情報の差異である。これとそれ、こことそこを差別し、システムを駆動するための権力である。その権力は、特殊な秘儀を知るものだけにのみ許されている。その秘儀を魔術師たちはSCM(註2)と呼ぶ。